【怖いけど良い話】タバコにまつわる闇

俺の親友の母親が癌になった話。

 

幼い頃の俺は荒廃した団地に住んでいたのは

既に話したとおりだが、

そこに兄弟といえる友達が1人居た。

 

Tは同い年で、

幼い頃から両親が健在だった。

 

中国人や韓国人、

犯罪者や破産者の巣窟だった団地では、

珍しいケースに入るだろう。

 

ただ、例に漏れずTの両親は小料理屋を借金で潰し、

借金を返せずに夜逃げ。

 

まぁそういう顛末で、

あの団地に漂着したらしい。

Tの親父は漬物屋でデッチをしていた。

母子家庭で不安定だった俺から見ると、

とても幸せそうな家庭だった。

 

俺は野良猫の様に?

その家庭で晩御飯を御馳走になったりしていた。

今考えてみると、

非常に恥ずかしい体である。

 

Tの親父は人柄がよく大風呂敷な男で、

稀に大きな夢の様な事ばかり言っていた。

 

母親は新潟出身で色白、

人柄もよく華奢な美人であった。

 

Tには美人の姉が居たが、

結婚して家を出たのが早かったから、

ここ10年ぐらいは

Tと父母の三人暮らしという感じだろう。

 

既に俺は他府県に出たので、

その後のTの様子は

年に1回mailでやりとりする以外

あまり知らなかったが、

Tの母親が故郷を去る別れ際に、

「貴方が居なくなると思うと寂しい」

と言った言葉。

 

それだけがずっと俺の心に残っていた。

数年後のある日、

俺は突然仕事を休んで入院した。

 

病名は腸閉塞だったが、

原因は最後まで解明できなかった。

 

二週間の入院の後で俺は退院したが、

また同じ症状が出て、

数日後にまた入院しそうになった。

 

ところが、病院にベッドが無いので

入院できるかどうか分からない。

 

そうこうしている内に症状がスッと改善し、

俺は診察台の上でホッとしていたら、

そこへ電話が入った。

 

誰かと思ったら、

その受話器の声の主はTだった。

『親父が今、死んだ。

病名は・・・腸閉塞だ』

回想するに、

Tの親父はヘビースモーカーだった。

 

俺が煙草を止めるように言うと、

「男が一度やり始めた事を、

途中で止められるか」

と笑って言われたのを思い出す。

 

親父さんは元来意思の弱い人間で、

煙草を止められそうにも無いのは

皆が知っていたので、

コレには同席したTとTの母親も

一緒になって笑った。

 

世間の競争を避け、

安楽な怠惰に時間を浪費し続ける?

Tの親父さんの人生スタイルには、

煙草がよく似合っていた。

 

しかし、ニコチンに侵されカチカチになった体は、

フランケンシュタインも

かくあらんという程?鈍重だった。

 

煙草で心臓をやられ、

大手術をしたにも係わらず、

退院するとすぐに煙草を吸う親父さん。

 

今から3年前に彼は血便をたれ、

道にうずくまっていた所を姉に発見され、

救急車で病院に運ばれたが手遅れだった。

 

享年63歳。

葬式の時、Tの母親もTも泣いていた。

漬物屋からは2万円の入った香典が一枚届けられた。

 

俺の親友Tはそういう父親を見て育ったせいか?

小学校4年生で既に煙草を吸っていた。

 

父親がアレだけ大量に、

しかも長期にわたり喫煙しても

肺癌にならずに済んだのだから、

(実際に心臓部に動脈硬化を起こしているが)

Tも煙草毒に対する親和性があるのだろう。

 

胃潰瘍になる程度で

(父と同じで消化器系がやられるパターンか?)

不思議と元気である。

さて、そんな彼がここ一ヶ月前に突然失業した。

勤務していたビデオ店が倒産したからだ。

 

オーナーは借金のゴタゴタで変死し、

まさに突然の解雇だった。

 

Tは未亡人から10万円をもらっただけで、

失業保険給付金すらもらえない有様である。

 

Tはその日、

もうひとつのバット・ニュースを聞く事になった。

 

お腹が痛いという理由から

近くの病院でレントゲンを撮った母親が、

医師から癌を宣告されたからだ。

 

恐らくTやTの父親の煙草の煙を、

数年間に渡り間接喫煙していたからであろう。

Tはそれでも煙草を吸い続けた・・・。

 

父親を煙草で亡くし、

(友人も煙草が原因の胃癌で手術)

今、母親を癌で失おうとしているのに、

それでも煙草が止められないTの哀れさ。

 

実にTの家は、

煙草が原因で

未来が真っ黒になってしまった

数奇なケースと言える。

 

愚かな親父と馬鹿な息子。

本当に可哀想なお母さん。

 

受話器越しにTが言うには、

Tの母親の癌は末期で、

既に転移も認められ、

治療しようにも助かる見込みは無いとの事だ。

お世話になっただけに言葉にならない。

幼い頃に裏山で煙草を吸い始めたTに、

こっそり煙草を勧められて

一本吸って「マズイ」と棄てた俺。

 

あれはとても小さな決断だったが、

俺の人生には非常に大きな決断だった。

 

貧困で夢がないから、

人はそれを紛らわそうとして、

酒や煙草をやるのかもな。

俺はこっそり溜めた小金を、

全額Tの家に現金書留で送った。

 

もっと沢山俺に金があればと思うと、

悔しい。

 

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