【ゾッとする怖い話】看護実習で聞いた鈴の音

まだ看護師が

看護婦と呼ばれていた時代だ。

当時、俺は某医科大学の

看護学部の学生だった。

短い夏休みが終わると同時くらいに、

国家試験前の最後の看護実習が始まる。

俺は付属の大学病院で

国家試験の前に実習生として、

主任となる看護師さんと共に、

担当の患者さんを受け持っていた。

そこで俺は、整形外科棟で、

ある患者さんと出会った。

今まで診た患者さんは、

老人か中年の方々が多かったが、

今回は17歳の女の子であった。

彼女の名前はA美といい、

右足を失っており、義足を用いながら

リハビリを行っている状態であった。

A美は男の看護師である

俺のことが珍しいらしく、

色々と俺について聞いてきた。

内容はいかにも年頃の高校生の質問

って感じで、彼女はいるの?

好きな人は?とか、

学部に男の人って他にもいるの?

っていう、普通に答えられるレベルの

質問ばかりだった。

A美の部屋は個室なんだが、

様子を見に行くと、

いつも笑っていてくれた。

そんなA美との他愛もない会話は、

辛い実習の中で、唯一、

心から楽しめるものとなった。

たまに長いおしゃべりが指導主任に

見つかって怒られることもあったが、

A美は小声で、「この後も頑張って」とか、

いろいろ声を掛けてくれた。

学生生活最後の実習も終わりに近づき、

実習終了まで後1週間と迫った日に、

お別れの挨拶がてらに担当していただいた

患者さんひとりひとりに、

病室に行く際、お礼を言って周った。

もちろんA美にも伝えた。

それを知ったA美は、

「Tくん(俺の名前)、後1週間かぁ」

と言いながら、

一瞬、悲しげな表情を見せるが、

「最後にTくんと、どうしても

行ってみたいところがあるんだけど、

お願い!一緒に行こ!」

と、ねだられた。

A美の容態は依然、車椅子なしでは

長距離の移動は困難であり、

俺自身の独断での行動なんてバレたら

国家試験はもちろんのこと、

家族の方に訴えられるなんてことも想像でき、

はっきりと断った。

それでもA美は諦めようとせず、

「ホントにホントに最後のお願い!」

「それは絶対にダメ。A美ちゃんに

なんかあったらどうするの?!」と言って、

キツイ口調で突き放した。

A美は、それでもねだり続けてきた。

せめて場所だけでも聞いておこうと思い、

場所はどこなのか聞いた。

そこでA美は落ち着いた口調で、

口元を緩ませ、「秘密」とだけ答えた。

あの時、背中がゾーってなったのは

今でも覚えている。

結局A美の要望は断り、

残りの実習を終わらせることだけ考えた。

それからは、A美は俺とは

口を利かなくなった。

俺から話題を振ってもノーリアクション。

なんか悲しくなった。

実習も後2日と迫ったある夜のこと。

俺は、その日の実習を終え、

お世話になった医師や主任にお礼を言い、

正面玄関から出た。

気づけば関係者以外立ち入り禁止の

入り口に立っていた。

どうかしていたんだと思う。

この4日間、口を利いてくれなかった

A美のことが気がかりで仕方なかった。

俺はそーっと入り口のドアノブを回し、

そそくさと非常階段を使いながら、

A美のいる6階まで登っていった。

A美のいる部屋をノックし、

返事を聞いたところで入っていった。

A美はベッドの高さを変えて

本を読んでいた。

たちまち不機嫌な顔つきをするが、

行きたい場所のことを聞くと、

すぐに明るい表情になった。

場所は案内するからと、

車椅子を押すように頼まれ、

病室を出た。

時刻は20時過ぎぐらいで、

1階に外来の方が少しいる程度。

6階はナースステーションの明かりが

点いているだけで人影はなく、

廊下の電気は薄暗く、

非常口の位置を示す

緑色の明かりが妙に目立った。

エレベーターで4階を指示され、

上がってきたエレベーターに乗ろうとするが、

そこには主任の看護師さんも乗っていて、

ヤバイっと思ったが、

看護師さんは俺を見て、

「ん?忘れ物?気をつけて帰りなさいよ」

とだけ言い、降りていった。

まるで目の前のA美をスルーするかのように。

俺は内心、怖かったんだ。

これからどこに行くのか。

A美の指示に従い廊下を歩いていくと、

目の前に渡り廊下の姿が見えてきた。

こんな渡り廊下、知らない・・・。

俺は実習で、

この病院に何ヶ月もいたし、

病棟の位置は

全て把握しているつもりだった。

だが、この渡り廊下の存在は知らなかった。

この廊下の先にあるものはいったい・・・。

「旧病棟だよ」

A美はニコニコしながら言った。

もちろん、医科大の学生として、

旧病棟の存在は知っていた。

でも、つい最近、取り壊しが行われたっていう

のが俺が知っている情報だが、

A美の言うとおり、まさに今、

目の前にあるのが旧病棟の入り口である。

関係者でもないA美が、

なぜ、旧病棟の存在を知っているのか

不思議だった。

A美に言われるがままに

入り口まで来たが、

中を見渡す限り、真っ暗。

いや、ホントに闇なんだ。

なんで旧病棟なのか尋ねると、

「だって、ここって出るんでしょ?

ワクワクするじゃん!」

俺は後悔したが遅かった。

施錠されていることを期待したが

鍵は開いていて、

結局、旧病棟に入ることにした。

「先生、これ持ってた方がいいよ」

と、渡されたのは懐中電灯で、

妙に用意がいいなと思いながら

電源のスイッチを入れ、中に入っていった。

中には医療道具や車椅子だったり、

見渡す限り、倉庫って感じだった。

病室も覗いて行ったが、

錆びれたベッドが一室に4つあるだけの

殺風景なものだった。

言われるがままに進んでいくと、

突然、懐中電灯の明かりが消えた。

あの時の焦りは半端じゃなかったね。

とにかく、ONとOFFを繰り返した。

そうしてるうちに明かりがついたが、

A美の姿がどこにもないんだ。

A美は俺が押す車椅子に乗っていて、

足は義足だし、車椅子を離れるのは、

ほとんど無理なんだ。

急に恐怖がこみ上げてきた。

とにかくA美を見つけることを最優先として、

フロアを走り回った。

するとさ、どっからか聞こえるんだ。

カタカタカタって・・・。

そう、車椅子を引く音。

どこから聞こえるんだろうと思い、

息を殺して耳を澄ました。

音は廊下の突き当たりから聞こえた。

A美かな?と思ったが。

でも、直感的に思ったんだ。

A美ではないと。

姿を見てはいけないって思って、

そこから離れようと

全速力で出口に向かおうとしたが、

出口がどこだったか

わからないんだ。

途中、エレベーターを見つけるが、

俺は唖然とした。

旧病棟で電気なんて

止められていると思ったが、

エレベーターの数字が

1から2、2から3、3から4と、

上がってきているのだ。

今、俺がいるフロアは4階。

ピンポーンと、

エレベーターから音が鳴った。

もう、この病棟は色々とヤバイ

と思ったが遅かったんだ。

エレベーターの扉が開く前に、

震えが止まらない足を無理やり動かして、

非常階段を使い、

とにかく下へ行こうと思った。

すると、今度は鈴の音が

階段の下から聞こえてきて、もう本当に

「ヤラレル」って思ったんだよ。

初めて入った病棟を、

訳もわからず出口を求めて

ひたすら走り周った。

でも、鈴の音は、どんどん大きくなるし、

A美の姿は見当たらない。

観念した俺は、

4階の窓から飛び降りた。

その時、足を強くひねったみたいで、

苦し紛れながらでも、持っていた携帯電話で、

119番をコールして一命は取り留めた。

不思議と膝の半月板や靭帯の損傷は、

そんなにひどいものではなく、

2週間ほど病院に通うことにより、

ギブスは取れた。

事情が事情なだけに、

実習は一応、合格をもらった。

後日、主任のところに

実習のお礼を言いに行く際、

最後の日、エレベーターで会った

出来事を聞いてみると、

「何言ってんの。あなた1人だったわよ」

と言われ、心底震えた。

A美についても、

A美は俺のことを知らないらしく、

主任もA美を担当にした覚えはないという。

あれはなんだったんだろう。

今でも鈴の音はトラウマ。

 

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