親戚の女の子が、
父親に連れられ家に遊びに来た。
この子は母親を数週間前に亡くしていた。
今回、父親が出張に出てしまうので、
数日間うちで預かることになったのだ。
環境を変えて元気付けたい、
との想いもあったのだろう。
人見知りが激しいわけでもなく、
特に明るくも暗くもない。
ごく普通の女の子だった。
母親の死のことで特別ふさぎこんでいる様子もない。
が、遊び相手をしているうちに、
ある違和感を感じるようになった
一人になることを異常に怖がるのだ。
私がトイレに立ち、
その間部屋にとりのこされるだけでも異常に怖がる。
その嫌がり方は尋常でなく、
泣いて私のスネにしがみつくほどだ。
私の母親といる時も同じ反応を示すという。
てことは、私と離れることが寂しいから、
ということでもないらしい。
空間に孤立しなければ、
誰が相手でもいいと思われる。
ますます分からなくなった。
学生の身分であるとはいえ、
自分にも予定があるし、
一日中遊び相手をしているわけにもいかない。
しがみつく女の子をふりほどいて、
外出するのにも辟易していた。
ある日、また例によってむずかったので、
今度という今度はと、
「○○ちゃん、そんなワガママ言ってちゃだめでしょ」と、
少し強めにたしなめた。
私が無理やりふりほどいて、
トイレに立とうとしたその時、
彼女は泣きじゃくりながら叫んだ。
「黒い人がいる」
聞いてみると、その人は最近出現し、
じっと彼女の傍らに居るという。
部屋に一人になると、
彼女にしか見えない『黒い人』と二人きりになってしまう。
それが耐え難いほどの恐怖だったようだ。
彼女の母親は焼身自殺だったそうだ。
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