俺が高校生の時の話なんだが。
当時俺が通っていた学校はすぐ近くに
県立だが国立のバカでかい霊園があって。
霊感ほぼ0でガチ運動部の俺は
毎日部活でその霊園の中を走り込みをしていたんだ。
走るのは時間にしてだいたい一時間くらいかかるルートで、
他の部活の部員もよく利用しているので
それなりに人とすれ違うんだ。
んで、夏のかなり良い天気の日だったと思う。
学校まで後10分くらい、
すぐ隣が墓になってる場所で
「にゃお~ん…」って猫の声が聞こえた。
わかる奴はわかると思うが
猫が誰かを呼ぶ時の間延びした声ってあるだろ?
まさにあれ。
俺んちは生まれた時から猫をたくさん飼っていて
俺も大層な猫好きなんよ。
思わず速度を落として声のした方を見ると、
かなり近い墓石の間から猫がこっちを見ていた。
もう10年以上前の事だから
あまり覚えていないんだが確か灰色っぽい猫だった。
別にどこにでも居そうな猫で、
ちょこんとお行儀良く座ってた。
今思えばかなり軽率な行為なんだが俺は立ち止まって、
「ちっちっちっ」と舌を鳴らして猫を呼んだ。
猫は寄ってくるでも逃げるでもなく
ずっとこっちを見ていたので、
俺は歩道から墓地に入ったんだ。
すると猫は俺の手が届きそうになると
ゆっくり後ろを向いて墓地の奥に歩いた。
逃げられたと思ったら
猫は最初と同じ距離くらいまで離れると、
またこっちを向いて座り
「にゃお~ん…」
と鳴いた。
なんとか触りたい俺は舌を鳴らしながら近付くが
また同じ様に距離を置かれて、
また「にゃお~ん…」。
ここで俺は
「あぁ、俺をどこかに案内したいのかな?」
と薄々感づいていたんだが。
せいぜい「子猫でも見せてくれるのかな」くらいに考えた。
普段から利用するランニングコースのすぐ近くという場所と、
晴れ渡るような青空という状況に完全に油断していた。
猫に呼ばれながら墓石の間を少しずつ奥に進んでいくと、
墓場の奥の林に突き当たった。
外から見た感じ木々もまばらな普通の林だったんだが、
猫がするっとそこに入ると
木の陰に行ったのか姿が見えなくなった。
姿は見えないが「にゃお~ん…」
という俺を呼ぶ鳴き声は聞こえたので、
俺は林に入った。
一歩。
二歩。
三歩入った俺は死ぬほど後悔した。
木々もまばらに見えた林は中は薄暗く、
360度から不気味な木々のざわめきが
やけに大きく聞こえた。
変な声がしたとか、
幽霊が出たとかそういう明確な異常は無いが。
ゲームで例えるとさっきまで
『僕のなつやすみ』
みたいだった世界が一瞬にして
『サイレント・ヒル』の世界に
叩き込まれたかと思うほどの劇的な変化だった。
慌てて前後左右、
頭上足下を弾かれたように確認したが、
どこにも猫の姿はない。
それどころかほんの三歩後ろのはず林の外が
やけに遠く感じられた。
正直何が起こったのかまるでわからん俺はただただ混乱した。
「にゃお~ん…」
また猫の声がした。
背中につららを入れられたような
悪寒を感じて心臓が高鳴った。
金縛り? ではないと思う。
純粋に恐ろしくて動けなくなった。
正直半泣きだった。
目だけで林の奥を探すが猫は居ない。
俺が動けないでいると何度も猫は鳴いた。
「にゃお~ん…」
「にゃお~ん…」
「にゃお~ん…」
機械的な等間隔で俺を呼ぶ鳴き声は
木々のざわめきに混じるように
前後左右から聞こえた。
そこで俺は
「これは猫じゃない!!」
と直感して、一目散に逃げた。
学校前の交差点とか赤信号でも夢中で走り抜けた。
グラウンドには先に到着した同級生が俺を待ってた。
先頭を走っていたはずの俺が
いつまで経っても戻ってこないのを心配してくれてた。
その日の夜、晩飯の時に家族に
この話をしたらしこたま怒られた。
それなりに長いこと親父に説教されて、
あんまり内容は覚えていないんだが。
『(この世界に)生きてんのがお前だけだと思うなよ』
というような旨を叱られた気がする。
あれが何だったのかはわからんが、
今でもあの猫(?)の俺を呼ぶ声は忘れられない。
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